2014年12月3日水曜日

「異端者でいいじゃないか」菅原文太さんが国民に送ったエール 2014年12月2日 日刊ゲンダイ

(沖縄での最後のメッセージ)

「異端者でいいじゃないか」菅原文太さんが国民に送ったエール 2014年12月2日 日刊ゲンダイ
 【日刊ゲンダイ新春特別インタビュー「ポスト震災を生き抜く」2012年1月1日号より】

  あれだけの大震災と原発事故を経て、日本人の意識が違う流れに変わるかな、と期待したけど、変わらないな。何も変わらないと言っていいほど。戦後の日本はすべてがモノとカネに結びついてきた。そこが変わらないとな。

  農業もそうだ。本来、人の命を養うための営みが、利益や効率を追い求めて、いつの間にか商業や工業のようになってしまった。JA全農のガラス張りビルが経団連の隣にあるのが象徴だ。おかしな話だよな。

  俺は09年から有機栽培に取り組んできた。在来種を扱うタネ屋は数えるほどで、売られている野菜は「F1」といって一代限りで、タネを残せない一代交配種で作られている。農薬もハッキリ言って毒だよ。米軍がベトナム戦争で散布した枯れ葉剤のお仲間さ。極論すれば農薬と化学肥料とF1種で成り立っているのが、今の日本の農業じゃないのか。

  その構図は原発とイコールだ。日本は高度成長に入る頃から、アメリカに「農薬を買え」「化学肥料を入れろ」と突き上げられ、ハイハイと従ってきた。農協が「大丈夫、安全だ」と農民にどんどん売って、60年代には、ヨーロッパの6倍、アメリカの7倍の農薬を農地に投入してきた。今や日本の有機栽培率は、たったの0・16%。中国以下なんて情けないよな。

 ■農業も原発もアメリカの実験場だ

  農薬の怖さはそれこそ放射能とおんなじさ。人体への影響は目に見えない。農民は危ないから子どもたちを農地に入れないよ。儲からない上に危険だしじゃあ、後継者不足も当たり前だ。原発に農薬にと、日本はアメリカの実験場にされてきたんだ。

  農薬いっぱいの土壌からできたコメや野菜でいいのか。化学肥料と農薬を使わない本当の土壌にタネをまけば、よく根を張って力強くおいしい作物ができる。

 「農」が「商」だけになってはダメだ。「工」にもあらずだ。このトシになって、今さら夢はないけどな、農業を安全な本来の姿に戻したい。それが最後の望みだね。

  戦後の日本人は「世界一勤勉な国民だ」とシリを叩かれ、働いてきた。集団就職列車に乗って、大都会の東京や大阪の大企業や工場に送り込まれてきた。日本人総出で稼ぎに稼いで、豆粒みたいな島国が一時は世界一の金満国家になったけど、今じゃあ1000兆円もの借金大国だ。

  国はカネがない、増税しかないと言うけど、ぜひ聞いてみたい。日本人が汗水流して稼いだカネはどこへ消えたんですか、と。何兆円と稼いだカネが雲散霧消したのなら、この国にはどんなハイエナやハゲタカが群がっているんだ。

  近頃は「清潔さ」ばかりを求め、政界でも異端者やアウトロー、変わり者を受け入れない風潮がある。けど、スネに傷を持たない人間なんていないじゃないか。どこかで間違いのひとつやふたつ犯している。真っ白な無謬な人間なんていない。アナタ方はシャツの裏側まで清潔だって、言い切れるかい。

  今の世の中は人間をテレビ画面くらいの小さな枠に収めようとする。俺たちが生きてきた映画の枠は大きなスクリーンだったから、誰でも受け入れた。

  世の中の方がネジ曲がっているんだ。ヘンクツや異端者と呼ばれてもいいじゃないか。変わり者の生き方の方が面白いよ。昔は新聞記者も変わり種がいて、良い記事書いてたぞ。日刊現代の会長も相当な変わり者だぞ(笑い)。

  なにより2012年こそ被災地に生きる人々にとって良い一年になって欲しい。本当に祈っているよ。

 人々の幸せを祈った菅原文太さん/(C)日刊ゲンダイ

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