阿部文子
目次
A)「スマートスタック」トウモロコシの誕生
-新たなモンサント社の世界戦略の展開
B)アジアに広がる遺伝子組み換え作物
-アジアに侵略するモンサント社
C)不透明なヒト、生物への影響
-1988年トリプトファン事件
D)新たな段階に入った日本の生命操作研究
-国家予算に群がる体制派学者の生命操作研究
E)私たちに問われていること
― バイオハザード時代に持続可能な未来を求めて
A)「スマートスタック」トウモロコシの誕生
-新たなモンサント社の世界戦略の展開
1)遺伝子組み換え(GM)作物は 大豆、トウモロコシ、綿、ナタネの4種類である。
2)「除草剤耐性」と「殺虫性耐性」の2種類で 前者は「除草剤を撒いた際に作物だけが生き残るため、省力化・コストダウンになる」というモンサントの売り文句であった。殺虫性作物は 「作物自体に殺虫毒素ができるため、害虫が死ぬ」ということである。
3)しかし 最近では その殺虫毒素によって死なない害虫が大量に発生。また 除草剤耐性に抵抗力をもった雑草も大量に発生して有効性を失いつつあり、農薬が増加し費用がかさむという悪循環に陥っている。
4)遺伝子組み換え技術が商業化して 約10年。わずか10年で、これまでの遺伝子組み換え技術は、自然のしっぺかえしに遭遇し、行き詰まったのである。
5)しかし バイテク企業は 自然のしっぺかえしから教訓を学ぶのではなく 私たちの食料の「生命操作」というべき後戻りのできない大胆な事態へと 突き進んだのである。
6)それは バイテク企業モンサント社と、ダウ・アグロサイエンスによる「スマート・スタック」と呼ばれるトウモロコシの品種の開発である。
7)この品種は これまで開発した除草剤耐性と殺虫剤耐性作物に用いられるメインの遺伝子を同時に8個も導入したもので、複数の除草剤に耐性をもち、地上・地下の複数の害虫を殺す毒素をもつとされている。
8)人工的に取り出した遺伝子を 大量に同時に入れることによって、生命体の中でどのような変化が起きるかわからない。
9)昨年7月 カナダで承認され 今年から米国で商業栽培される予定で、日本への輸入も不可避となるにちがいない。
10)私たちは 食料の質的危機とも言うべき こうした事態にどのように対処したらいいのであろうか。
11)私たちの生きる姿勢が問われていると思えてならない。
B)アジアに広がる遺伝子組み換え作物
-アジアに侵略するモンサント社
現在、生態系と生物進化に対する干渉というべき事態が、アジアにも拡大している。
アメリカ本国では「スマートスタック」が、そしてその他の新しい地域では、これまでの除草剤耐性や害虫耐性を含んで新しい技術が導入される。
1) 技術上の問題
これまで遺伝子組み換え作物は4種類(大豆、トウモロコシ、菜種、綿)しか流通してこなかった。しかも、約10年間にわたって、除草剤耐性と害虫耐性の2種類であった。
ところで、この2種類がいずれも耐性雑草や耐性害虫を生み出すことによって、全く使えないものとなりつつあり、モンサントの世界戦略は変更を余儀なくされている。
2つの遺伝子組み替え技術(除草剤耐性や害虫耐性遺伝子組み換え)から、多くの遺伝子打ち込みによる多機能対応技術へ。
約10年間によって耐性雑草や耐性害虫を生み出して、植物の世界にしっぺ返しされる事態は、次の疑問を生じさせる。
GM大豆やトウモロコシ、菜種を直接食べる動物の体内自然はどうなっているのか。
間接的に、その肉や大豆、トウモロコシや菜種製品を食べざるを得ないヒトの体内自然はどうなっているのか。そのことも明確にならないまま8つの遺伝子操作によるGM技術の生命(ヒト、家畜)に対する影響はますます不透明にならざるを得ない。
2) 種類上の問題
これまでのGM作物は、4種類(大豆、トウモロコシ、菜種、綿)であった。その種類が、2010年から格段に広がる。中国とインドを中心に、その他のアジア地域に広がる様相を見せている。
- 中国・・・イネ(①殺虫性イネ2種類―汕雄63号、華恢1号)、②ニカメイガ耐性イネ③細菌性耐性イネ)。小麦(旱魃耐性小麦)、トウモロコシ(フィターゼトウモロコシ)。その他、綿、トマト、ポプラ、ベチュニア、パパイヤ、甘唐辛子はすでに栽培されている。
- インド・・・ナス(殺虫性ナス)、トウモロコシ(スマートスタック)は、2010年から商業栽培の予定。GM綿はすでに栽培中。2012年―13年にモンサントインド社はGMトウモロコシ導入を予定。
- フィリピン・・・イネ、パパイヤ。
- イラン・・・イネ、しかし、栽培は進んでいない。
- 日本・・・味の素がGM調味料、甘味料を開発。日常的に多く使われているアミノ酸が、2010年からGMアミノ酸に変わり、直接加工品に添加される事態。
3) 地域上の問題
これまで北・南米大陸に集中していたGM作物栽培がアジアで拡大することになり、それに伴って、GM汚染地域もアジア地域で拡大する。生態系と生物進化に対する干渉の地域が格段に広がる。
C)不透明なヒト、生物への影響
-1988年トリプトファン事件の教訓
1) スマートスタックトウモロコシの波紋
2010年商業栽培されるスマートスタックトウモロコシは、私たちの生活に深く要りこんでいるこれまでのトウモロコシ製品に準じて入り込むことになる。
イ) 生食用スイトコーン
ロ) コーンフレイク
ハ) ハンバーガ店のポテトチップス
ニ) ハンバーガー店のケチャップに使われる糊料のコーンスターチ
ホ) ピクルスをつける醸造酢の原料に使われるトウモロコシ
ヘ) ハンバーガーの牛肉を育てる飼料作物のトウモロコシ
これらのアメリカ文化を受け入れることを避けることが出来ない。
2) GMハザード事件(トリプトファン事件)
イ) 1988年~89年、主にアメリカを中心に発生。
ロ) GM技術によって改造した細菌に製造させたアミノ酸・トリプトファンを原料とした健康食品だった。
ハ) 約6000人が被災、38人が死亡。
ニ) 遺伝子組み換え技術を用いた製造工程で発生した不純物が有害性を発揮。
好酸球増加。筋肉痛症候群(EMS)という病気を発生。患者は前身の筋肉痛に悩まされた。
現在まで、ほとんどの加工食品に「アミノ酸等」が、うまみ成分として添加されているが、その実態はグルタミン酸ナトリウミである。GM調味料、甘味料はかつて昭和電工が使い、トリプトファン事件を起こした製造法で製造される。
日本政府は昭和電工のトリプトファン事件の真相究明も行っていない。教訓が生かされているのか不透明なまま、GM調味料、GMアミノ酸が私たちの食卓に登場しようとしている。
D)新たな段階に入った日本の生命操作研究
-国家予算に群がる体制派学者の生命操作研究
1)「脳死をもって人の死とする」脳死・臓器移植法の改訂(2009年7月13日成立)
1980年代から1990年代にかけて「はたして脳死は人の死といえるか」という熱い議論が行われていた。しかし、2009年7月「脳死」を初めて全面的に「人の死」だとうたい、0歳まで含めた小児からの臓器を提供できることを認めた法律が通った。2010年1月17日から親族への優先提供が始まることになった。
「脳死をもって人の死とする」ということはどういうことか。身近な問題にひきつけて考えると、それがどんなに不自然なことかよくわかる。私が東京で仕事をする時泊めていただいている水田トラストのKさんは,ある日の朝、目を覚ますとパートナーが眠ったままになっていることに気がついた。彼女はパートナーを入院させ、約1年間意識不明の彼をみとった。パートナーは約1年間、眠ったまま生存された。その間彼女は引継ぎの仕事をこなし、心の準備をし、パートナーをゆったりと見送った。
私の母の場合も同様なことが起こった。母の右足が立てなくなった。近くの病院へ行き、さらに大きな病院へと廻され、入院。薬に頼らず薬草などで健康に暮らしていた母は、その日元気に食事をし、検査へと運ばれていった。しかし、検査が終わって病室へ帰ったとき、すでに母は意識不明になっていた。そのまま意識は戻らず、約10ヶ月の後、静かに旅立っていった。
この二つの例からして、「脳死を人の死」とするにはどうしても無理がある。まだ心臓は動いており、家族や友人の期待や心の準備など、大切な時間を考慮せず、本人が拒否できないことをいいことに「脳死は人の死である」として、家族や友人の思いを含めて抹殺することではないのか。臓器移植された人にも、禍根を残さずには置かない。
2)受精卵や生殖細胞を作ることを研究者に容認
従来は、生殖細胞(卵子や精子)を作ることは全面禁止だった。しかし今年に入って、先端技術の研究目的で、文部科学省、厚生労働省の合同専門委員会が、受精卵の製造を容認した。ヒトのES細胞やIPS細胞、組織幹細胞から生殖細胞を分化させられることがわかって、精子や卵子を作り出すことを承認したのである。
先端技術名目の国家予算がたっぷり使われるこの領域に、企業は参入し、バイオ研究施設を作っている。
3)体細胞クローン動物が食品として承認された
体細胞クローン動物を作り出す技術は、原始動物の発生以来、数十億年をかけて、有性生殖生物に進化してきた今日の哺乳動物を、短期間で無理やりに、無性生殖動物に作り変えてしまう操作であり、根本的に自然の摂理に反する危険な技術なのだ。
体細胞クローン動物は受精を経ないために、死産や生まれて間もない死亡が桁違いに多い。
体細胞クローン牛535頭誕生の内、死産77頭、生誕後すぐに死亡90頭、病死128頭、生存率45%である。生命操作のつけや歪みを子や孫の代が引き受けているのである。(一般牛の5倍の死産)
ましてや突然変異が問題になっている分野であるにもかかわらず、開発は着々と進められて来て、ついに、食品として認可されてしまったのである。新たなバイオハザードの危険性は、ますます私たちの生活の足元に押し寄せている。
しかも食品を通してなので、原因を把握することが極めて難しい事態に入ったのである。
E)私たちに問われていること
― バイオハザード時代に持続可能な未来を求めて ―
1)日常的に起こりうるバイオハザード
ごく最近、里山に引っ越して来た仲間が言った。2008年のリーマンショックが勤めていた会社に多大の影響を及ぼしたとき、「この経済は終わりだ」と感じたと。
20世紀から続いた現在にお支配的な経済と社会のあり方が、人類にとって持続可能ではない、そう感じる人が増えているのではないだろうか。膨大な食品添加物、化学農薬と化学肥料によって作られた農産物一つ一つが人体および生物全体にどんな影響を及ぼすかわからない。
そして今、人工遺伝子組み換え動植物がバイオハザードの仲間入りをしかねない状況になっている。原因不明の異常として私たちに降りかかる,そんな時代を私たちは迎えている。
これまでの遺伝子組み換え問題(以下GM)は次のようなものである。
- GM食品公害事件として、米国で起こったトリプトファン事件が有名である。1988年~89年に昭和電工(味の素関連事業体)が健康食品として販売したGMトリプトファンによって,38名が死亡、約6000名が全身激痛の後遺症に苦しむことになった。
- 米国で約10年にわたって問題になったGM牛成長ホルモン剤。投与された牛の肉や乳製品を摂取した幼児に起きているアレルギーやホルモン異常。牛自体にも問題がおきている。
- GM除草剤耐性菜種や大豆の使用をめぐる裁判をモンサント社が起こしている。モンサント社は「モンサントポリス」を組織し、他者の耕作地に無断で入り込んでは、菜種や大豆の農家を訴え、100件余の裁判に持ち込んだ。それは風やその他の汚染によるものであったが、ほとんどの農家は罰金を支払った。しかし、カナダの菜種農家シュマイザー夫妻は身に覚えのない訴訟を不当とし、約10年モンサント社と闘った。
シュマイザー夫妻は、もしGM作物が一旦栽培されればどこででも起こりうる問題だと世界キャンペーンを行った。日本では「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」とともにシュマイザー氏は九州から北海道まで講演をした。山形県・新庄でも地元農家に大きな感銘を与えた。 - 2009年米国では、除草剤が効かない耐性雑草が広範に広がった結果、GM除草剤耐性菜種、大豆の耕作放棄が出ている。
- イギリスの科学者パスタイ博士らの研究で、内蔵への悪影響、遺伝子の水平移動など由々しい事態が発表されている。
2)生命を対象とした技術
生命を対象とした技術であるバイオテクノロジーは、家畜や植物の品種改良、漁業や発酵産業の改良も行っている。「
通常、生物のDNAは親から子へと縦方向に伝わる。すなわち、他の種への水平伝達=横方向へは伝わらない。めしべとおしべの同じ染色体が入れ替わる何らかの機会に、外来のDNAが進入すると、それを破壊したり、不活性化したりする機能が生物には備わっている。これが壁になって、生体の健康が保たれたり、種の独立性が維持されたりしている」(「自然と人間」vol11阿部文子)
「モダンテクノロジー」と表現されることもある遺伝子組み換え技術は、従来のバイオテクノロジーとどこが違うか。たとえば、「イネのDNAは26000個で、DNAの突然変異はランダムにどんどん起きている。それは、イネが自然界からの有害な紫外線や原子、磁力などから身を守るためにそうしているのである。
傷ついたDNAをいやしながらDNA組み換えを頻繁に行って、生き物の特性(形質を保ちつつ繁殖・増殖する)をけなげに遂行しているのである。」(同上)
こうした通常の生物の遺伝子組み換えと異なって、人工的に種の壁を越えさせて、異なる生物の遺伝子を人工的に取り出し、(他の植物や動物にも利用される)生物を遺伝的に改造する。
それは、自然界では起こりえない現象を、人為的にもたらすことである。それまで自然界に存在しなかった新たな生命体を作り出しているということである。
その他、人為的操作技術には次のようなものがある。
- クローン技術
通常の生殖過程を逸脱して、遺伝的に同じ生命体を作り出す技術である。 - 細胞融合技術
二つの異なる生物種の細胞を融合して、自然界にはありえない雑種を作り出す技術である。 - キメラ
二種類以上の動物の生殖細胞を混合して、モザイク状の雑種を作り出す技術である。
GM技術は、遺伝子組み換え操作は、長い時間をかけて出来上がった自然界の種の壁という絶対的な秩序への介入、それが自然と人間、そして私たちの生命と食にとっての持続可能性の撹乱であることは、誰の目にも明らかである。
3)「地域自給組合あわのわ」とその現代的意義
しかし、他方で持続可能な未来への動きは、生活と食に限らず世代を超えて広がっている。
全国各地で地産地消の道の駅など、人と人とのつながりのあり方は、色々の地域での暮らしの自給へと移りつつある。
全てのものを貨幣で購入する商品世界から、労働の成果として、労働が見える食料,衣料、家財へ。工場生産物、商品としての建築物から、人と人とのつながりの結果としての建築へ、貨幣がすべての人の間に介在し、人と人との間を引き裂いた事態から、貨幣が補助手段の道具となっていく人と人とに関係へ。
そうした動きのひとつとして、今、千葉県・鴨川で若者が中心となって「地域自給組合あわのわ」(以下「自給組合」)を紹介する。「自給組合」は暮らしの自給運動である。いくつかの自給の輪(プロジェクト)を作っている。
①そのひとつ「地域自給の輪」では、生産と労働のあり方を明確にしている。「同じ地域に住む組合の賛同者が、緩やかな共同体として結ばれ、お互いに顔の見えるところで生産し、消費する。可能な限りお金やモノの移動を小さくすることによって、われわれが労働から得たものが地域の外へ流出することを食い止め、輪の中で循環する仕組みを築き、それぞれの生活が豊かに幸せになることを目指す。」
農地利用の主体をいわゆる農家だけに限定せず、むしろ地域の多様な住民が主体となって、重層的に農地を利用していく。「産業としての農業」ではなく、私的所有権の対象としての農地ではなく、「自然と人間との相互行為としての農業」という視点から、共同で維持・活用されるべき地域の共有財産としての農地である。
耕作放棄地は、農地利用の空洞化であるが、同時にそれは農地の自然性の回帰の始まりであり、利潤ベースの企業や小回りの利きにくい行政に比べ、アソシエーションや市民運動が有効に機能する可能性が高い場であるともいえる。
②「持続可能な輪」では、人と人、人と自然のあり方を規定している「食品、農産物においては出来るだけ無農薬・無化学肥料、無添加を目指し、楽しく働く場を作ることによって、資源の浪費や自分たちの心身を過剰に疲労させることのない人と人、人と自然のつながりを基礎とした持続可能な生活・社会を目指」している。
そうした実践の内容や意義、問題点について共有していく中から、地域で自らが果たす役割をめぐり、論議を深めていくことが出来るだろう。
この間、利潤の拡大を至上命令とするマネーゲームの破綻が明らかになる中で、成長や拡大などの従来の主導的な価値観が揺らぎを見せると同時に、対抗的な価値観を主導的な価値観へ転換すべくゆっくりと動き出している。
③「多様性の輪」は、組織内における組合員のあり方を規定している。「組合員の生産したいもの、労働したいことを他の組合員に呼びかけ、その中で生産方法、販売方法(円、地域通貨、物々交換)などの選択、生産に関わる資金の調達、労働の方法など,各プロジェクトチームごとに運営し、よりよい方法を組合全体に還元していく。各自、各チームがひとつの輪(生命)として存在し、ほかの輪とつながり、組合全体の輪を形成し、中央集権的なトップダウンではなく、フラットな組織を目指す。」
首都圏から2時間半、千葉の房総・鴨川周辺に移住してきた若者たち、30歳代―40歳代の人たちから期せずして起こった地域自給、暮らしの自給への動き。彼らは「現代社会の消費生活、賃労働、商品経済などを問い直し、それらを転換している実践の場として「地域自給組合あわのわ」を一緒に作っていきましょうと呼びかける。
④具体的なプロジェクトとしては、すでに2009年に「塩の輪プロジェクト」を稼動させ、「あえて手間隙のかかる薪炊きで塩を作」り、「便利さからは手にいれることの出来ない幸福感や達成感や結いの心、そして自然の恵みを効率重視ではなく・・・・持続可能な社会を作るために、われわれ人類にとって必要な事だと考える」としている。
「家作りの輪プロジェクト」では、「その昔、農民は大工でもあった」とし、「自分たちの食べるもの」をつくり、「住む家」も建てる。「ほんの50年ほど前までは当たり前だったことが、失われていることと環境の変化は偶然ではない。・・・頭で考えるのではなく、やって見る必要がある・・・後戻りするのではなく、取り戻すのである」と。すでに2010年3月から4月にかけて、塩作りの作業小屋を在来工法で建てる計画が進んでいる。
「穀物生産プロジェクト」では、2009年に2日間にわたって小麦をまいた。このチームは「小麦以外にも耕作放棄地の活用を含めた大豆、コメ、芋、ジャガイモなどの生産を目指して」いる。その他「種子プロジェクト」も種子の交換を始めている。
4)トランジッションタウンネットワーク
都市周辺でも暮らしの自給の動きが トランジッションタウンとして広がっている。
トランジション・ジャパンの代表 榎本英剛氏インタビュー(ムービー)
1. トランジッションタウン・イニシアティブ12地域
「12地域が集合するイニシャティブ連絡会議」が結成された。世田ケ谷、多摩、渋谷、南阿蘇、相模湖、藤野、葉山、中島、福岡、逗子、小金井、高尾、都留、鎌倉、足葛など続々とお互いに交流しあい、楽しみあい、支えあい、ますますトランジッションに弾みがかかる。
「都市部で何が出来るか模索を楽しみつつ、他地域の皆さんとも連携しあって、ゆるくやっていけたらとおもっています」(「トランジッションタウン・ニュース6号」)
作業部会も各地で盛ん。
「トランジッション相模湖より貴重な地大豆「津久井大豆」をお分けいただいて・・・日本古来の日常的な基本調味料・味噌を自分たちで作ることから、都市で購買・消費に依存する私たちが、フードマイレージや食料自給のこと,健康な食や暮らしなどを考える機会に」(「トランジッションタウン・ニュース6号」)したいという熱い思いはトランジッションタウンに集う人々の間に満ちている。
2. どんな作業がなされているか。
阿蘇ならではの伝統技術や保全食の知恵を生かして「蒔ストーブ作りワークショップ」、「地大豆で作る手前味噌作り」、「ハゼの実から作る“和ローソク作り」、「2トントラック
3台分の竹を切り出し、3階建てくらいのどんど焼きの櫓の組み立て」など。
トランジッション相模湖では、手作り豆腐や手作りハムを持ち寄り、ジャガイモから作った餅とり粉を使って餅つき大会を行った。また、トランジッション葉山では、年末のお掃除で出た“お宝”を集めて、「地域通貨なみなみ」が使えるワンデー・マーケットを開催した。
トランジッション逗子では、「毎週、逗子、葉山のいくつかのカフェを廻り、おいしい無農薬野菜を届けてくれる三浦のたかいく農園さんの小麦プロジェクト」に援農を開始。「今年は、自分たちで作った小麦でパンを焼いて食べるんだよ」と張り切っている。それぞれの作業の合間に、パーティーやカフェを開き」「新しいワークグループが誕生したり、ワークグループのテーマが見えたり、キーワードがたくさん見つ」かったりしている。(「トランジッションタウン・ニュース6号」)
モノ・金偏重のエゴイズム社会として、危機的状況にある人間性の克服に対しても一定の解答を与えつつ、生きる者と働く者の主権が尊重される社会=連帯経済社会への離陸が緩やかに始まっている。
5)非営利組織と連帯経済社会づくり
関西を中心とする「共生型経済推進フォーラム」が、活動報告などの本を出版した。冒頭に、「新しい時代が始まりつつある」とかかれている。「その全貌はまだ見えていないが、世界のあちこちで新しい社会を築く芽は育っている。それは、企業、地域社会、各種制度、社会システム、経済システム、人間関係など,さまざまな分野での新しい仕組みや思想の創造である。そこには人間精神の変革も含んでいる。あらゆる情報に耳を傾けていれば、世界の流れや変化が見えてくる。現代は文明の大転換期であり、われわれは激動の真っ只中にある。」(「誰も切らない、分けない経済」P7)
1. 社員株式会社
航空会社と自動車会社の「働く者が所有権を通じて生産の主権を取る時代」として、「ある日突然の大崩壊」あるいは「多くの小さな崩壊が次々と」起こっていく中で、とって代わったひとつの傾向の事例として、従業員所有企業を取り上げている。(「誰も切らない、分けない経済」P8)
「2008年金融危機の結果、資本主義の牙城である米国で、金融機関やGMが事実上国有化され、クライスラーの株式の過半数55%が労働組合UAWによって所有されるにいたったこと」(「誰も切らない、分けない経済」P8)をあげている。
1994年には米航空会社ユナイテッドが55%の社員株式所有、2008年には自動車のクライスラー、いずれも経済危機を契機にして、そうした流れが起こっている。しかし、生産の主権を働く人たちがとることになっても、競争がなくなるわけではない。航空会社も自動車会社も現代の社会には必要なものである。倒産という個別資本の危機は、社会経済システム転換のチャンスでもある。
「自然と人間の共生を基礎にし、再生産可能資源や自然エネルギーを活用し」(同p9)適正規模の生産と消費を社会的に調整するシステムを創出していくことが可能になっているのではあるまいか。「競争するのではなく,連帯しあい、お互いを排除せず、お互いを成り立たせる共存原理を基礎とする社会を導くこと」(同p9)を人々が望んでいる。その入り口に立っているのではあるまいか。
このとき、自然の破壊を食い止め、「自然と人間の共生を基礎」とすることが出来、「生きがいや働き甲斐の価値を生み育て」、人々の間に信頼を置くことが出来る。
2. 連帯を基礎とした非営利組織と社会システムづくり
「営利を原理とする資本主義経済システムの周辺では、それを包囲する非営利システムが、非営利セクターに拡大していく形で影響力を強めている。非営利組織の集合体からなるこの非営利セクターが、いずれは新たな社会経済の核心をなすときが来るだろう。
なぜなら、新たな社会を築く連帯の精神は、この非営利セクターが発信源であるからだ。連帯社会では、営利目的は否定されるのではなく、目的を目指す制約条件に地位が低下させられる。」(同p10)
「連帯とは救済を含むものであり、人類が家族のように苦しみや豊かさを分かち合って始めて、実現されるものである。・・・・環境システムと調和する共生型経済システムを形成しなければ人類は生き残れない。」(同p11)
3. 「ウージャンシー」
ウージャンシーとは、有機農業と新しいコミュニッティーの国際組織で、フランスが中心となって生産者と消費者の提携運動発祥の地である日本や地域サポート農業の盛んな米国の有機農家など世界に呼びかけて設立された連帯組織である。第4回世界大会は神戸で開催された。
1970年代に生産者と消費者が直接つながって出来た日本の「提携運動」は、いまや、「テイケイ」という言葉で国際社会でも注目されており、また米国の地域サポート農業(CSA)は1980年代中ごろ東海岸から始まり、現在全米で、約1700農場10万人の消費者が関わるまでに成長している。
北米ではカナダ、南米ではブラジル、アルゼンチン、アフリカでは、マリ、南アフリカ、カメルーン、アジアではインド、欧州ではスペイン、ポルトガル、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、デンマーク、イアタリア、ルーマニアで。特に、農業国フランスでの発展は著しく、2000年から始まり、すでに約1000の農場で取り組まれている。
500人(400戸)以上の消費者と提携する地域サポート農場のベンジャミン・シュート氏(ウージャンシーの理事)は、ニューヨーク市を中心に週2回のデポ配達の他に、イ)米農務省のプログラムを受託し、農場近隣の高齢者に有機農産物を供給する運動。ロ)自治体と組んでファイト・フォー・ハンガー(貧困との闘い)で、食糧供給を担っている。
こうした地域サポート農場の全米ネットワークとして「JUST FOOD」がある。
「自分だけが安心、安全な食べ物を獲得するのではなく、周りの人達と、特に弱者と出来るだけ分かち合う」ウージャンシーの掲げる活動目標を実践している。同じく、ウージャンシーの理事であるアンドリア・カローリー氏が組織するイタリアの共同購入団体GASは、「社会に責任を持つ消費者」が合言葉である。「消費者が何を考え購入するか次第で、社会の矛盾した問題を解決しうる」と考える。
GASは環境にやさしい生産物を生産する農家、加工業者をネットワークし、会員がボランティアーで支える仕組みを作り、イタリアに広がりつつある。「イタリア・ミラノという大都市の持続可能性を食物と環境の視点からどのように担保するか。“責任ある消費者”として、それまで有機農産物の流通役を果たしてきた生活協同組合運動を超え、一人一人の消費者の自覚に訴え、地域への還元、環境への影響を考えた消費行動に変えていく運動をGAS運動とよんでいる」(「地域が支える農と食 神戸大会」パンフP6)。
4. 埼玉県・小川町での実験(金子美登さん)
ウージャンシーの大会で基調報告を行った内の一人、埼玉県小川町の金子美登さんは、霧里農場を始めた1970年代に「成長の限界―ローマクラブ・人類の危機レポートー」を読んで、「工業化社会の終わりが来る、これからは農的暮らしの時代だと直感」したと発言している。
そして、顔の見える関係を大切に、直接提携する消費者に支えられ、40年間有機農業を営んできた。「自然界では、小動物や微生物、小さな虫から大きな虫までが、それぞれの役割を持ちながら関わりあって生きている。生まれては消える命の循環の中で、さまざまな養分が生まれ、生命を育んでいくのだ。そんな生命の循環を作り出しているのが有機農業」だと。(「いなかスイッチ」p8)
金子さんは有機農業を営みながら、地場産業とともに手を携えて村おこしを成功に導いている。仲間と収穫した米、大豆、小麦から、「小川の自然酒」、「石臼挽地粉めん」、「「生醤油」、「霧里とうふ」などの地場産業を作り出している。また、他方では、身近に有る資源を活用したエネルギーの自給にも力をいれ、給湯、床暖房、農機具や車両にも使っている。「いのちのつながりが見える社会を創っていきたい」とう願いは、部落全体の有機農業化として、まずは身近なところから実現した。
5. 現代若者事情
現代はグローバリズムの芽が個人を直撃する時代。排除される若者がいる。他方、排除に向き合いながら、地域に具体的な仕事、地域に必要な仕事を見出し、企業家する若者たち。どんな小さな草花にも花は咲き、実を結ぶ。一人一人の個人が、老いも若きも、障害ある人もない人も、個性を表現できる経済と社会。そこへひきつけられている若者が増えている。
実際、半農半X的な生き方、農を目指す若者は後を絶たない。「種まき大作戦」に集う若者たちは、大豆レボリューション、棚田プロジェクトなど、土に働きかける労働に汗を流す。アースデーマーケットに自分の好きな作品を提出しては、個性の発現を試みる。「道の駅」に始まった日本の年寄りに続いて、若者がそこへ参入する。
いまや、「発想を変える。私たちが変わる。世界を変える」とう考えは、多くの若者の生き方そのものになった感がある。
6. モンサント社の世界戦略の変更と私たちの対抗的生き方
「戦後の日本社会は、政・官・財の癒着的公共政策によって、高度経済成長を成し遂げました。その癒着構造の上に、今日の非常に厳しい社会状況もあるわけです。・・・国民が国家を愛し、政府の政策を支持するのは、国家・政府が人々の生活を保障し、豊かにしていく限りにおいてです。そうでない国家・政府や資本主義経済のあり方は、市民によって改革されることが必要です。
いまや、国家・政府(自民党政府)は、本来の責務を果たさないどころか、市民社会の重要な構成要素であるにもかかわらず、獅子身中の虫として市民社会を蝕み、多くの人たちの生活を破綻に追い込んできたのです」(「社会運動」p33佐藤慶幸)
国家・政府だけではない。モンサント社ら遺伝子組み換え企業は直接に、農と食品、土や私たちの体にダメージを与える経済と社会のガンになってしまった。
生活の基礎としてある食料が、広範に遺伝子組み換えによって汚染される事態が予想される。化学物質の添加物がそうであったように。そうした汚染に対抗するためには、絶えず人々に真実を知らせると同時に、他方では、スーパーで買い物をするライフスタイルを超えていく運動を広めていくことが必要だ。すなわち、連帯経済と社会を推し進めていくことと、現在の経済システムから別の経済社会システムを作り出す作業に参加することが必要だろう。
方法はいくつもある。これまで述べてきた運動の他に、身近なところでは、生協運動、農家との提携(直接手を結ぶこと)、遺伝子組み換えNOの水田トラストや大豆畑トラスト、若者の「種まき大作戦」への参加、半農半X的ライフスタイルなども考えられるだろう。