田中正治
新春のお慶びを申し上げます。
2011年はきっと世界史に残る年でしょうね、悪夢の年として。チェルノブイリとともに、原子力=核を人類は制御できないことを証明した年として。
「そんなこと言ったんですか?」。首相の「事故収束宣言」には、専門家からも驚きの声が上がっている。小出裕章京都大原子炉実験所助教は「あきれた人たち」と言って沈黙。しばらくして「すみません。わたしの中でそれ以外の言葉が探せない」と言葉を継いだ。事故で核物質を閉じ込めることができなくなり、空と海に放射能を放出している原子炉の状態で「冷温停止」もないものだ。政府と東電の魂胆は、「事故収束宣言」を内外にして、原発再稼動、推進、海外の輸出促進を進めようとしているのでしょうか。
小出助教は福島第一原発は「何とか悪化を食い止めているのが現状」と分析し、ステップ2さえ達成していないと指摘している。「今後も強い余震に襲われる可能性がある。そのとき建屋が大きく損傷している4号機の使用済み核燃料プールにある大量の核燃料は大丈夫なのか」、懸念を示している。阪神・淡路大震災以降、日本列島は地震の活動期に入ったと専門家は一様に指摘しているのです。
54基の原発の内、現在稼動しているのはたった4基。2012年春には全ての原発が止まる。再稼動をSTOPできたらね。電力不足は起こらないでしょう。日本の発電電力量比率は2008年度時点で、原子力発電 26.8% 、火力発電(石油等10.3% 、石炭25.2% 、LNG 28.3% )、水力発電 7.8% 、その他2.4%(資源エネルギー庁「電源開発の現状」)である。 火力発電の稼働率は48%で、52%は停止している。従って、原子力発電 26.8% を運転停止にしても、停止している火力発電を稼動させれば、電力は完全に自給できるはずだ。52%-26.8%=25.2%あまることになります。
過渡的には、破産している東京電力は国有化し、非原発の発電システムのみにしたうえで、送電システムを分離、売却、関連企業をも売却し、その収益を被害賠償に当てればよい。太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオ発電、地力発電などの発電事業の多様化、分散化によって、消費者が自分の好む電力を選択できるシステムは、すでに欧米では確立しています。
送電線は本来公共の道路のようなもの。送電線は社会の共有財産にした上で、電力も地産地消ということになる。もっと言えば、家庭や事業所での自家発電システムや原発抜きのスマートグリッド(地域エネルギーネットワーク)は、すでに世界では現在進行形です。過渡的には液化天然ガス(LNG)を使用するにしても、LNGもまた化石燃料で、石油はすでにピールオイルを迎えたのだから、結局、太陽エネルギーへの全面依存に転換するしかないでしょうね。
太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオガス発電も太陽エネルギー利用の形態です。もっとも太陽エネルギーは、石油とちがって集中型ではない。まんべんなく広く降り注いでくれる分散型エネルギーです。従って、大量生産、大量消費、大量廃棄型の現代文明にはそぐわないのです。大型化、平準化、集中化といった発想そのものが太陽エネルギー依存システムによって拒否されるでしょう。同時に大型化、平準化、集中化といった発想を否定することが、太陽エネルギー依存システムを構築する前提ともなります。
ところで風力発電については自民党政権時代から推進されてきた。巨大風力発電にのみ補助金を出していて、実際建設されているのは補助金目当ての巨大風力発電がほとんどです。周辺住民は低周波振動に悩まされ、地獄のような状態になっているところが多い。住民の反対運動が起こり現在はSTOP状態になっていまする。巨大風力発電は、エコではない。この狭く人口が多く、安定した風が吹かない国土では適切でない。ヨーロッパでは海洋風力発電にシフトしているし、アメリカでは砂漠に建設しているのです。
風力発電を採用するなら、小型で、低周波振動を出さないような機種の採用が不可欠でしょうね。最新技術による垂直軸型風力発電と小型風力発電・太陽光発電のハイブリッド街路灯は騒音もなく、低周波振動もない無公害型とされています。よいかもしれない。http://www.winpro.co.jp/
水力発電も同様で、大型水力発電は環境破壊が著しく、土砂がたまってしまい持続可能ではありません。中国地方に約200基の小型水力発電があるといわれますが、電力会社への販売価格は、安く抑えられていて、普及が抑制されています。日本の山間部では急な水系が多く、日本の地形は、実は小型水力発電に向いているのです。
東洋の島国、成熟した資本主義社会に起こった今回の大災害は、時代のターニングポイントではないでしょうか。資本主義経済は拡大再生産を維持しなければならない。なぜなら剰余価値獲得が目的だから。要するに、儲からなければ株式会社は倒産します。エネルギーから見ると資本主義経済は石炭と石油とウランいう再生不可能な資源によって拡大再生産されてきました。これに対して太陽エネルギー依存型経済は拡大再生産・剰余価値獲得型ではなく、協同組合、ワーカーズコレクティブ、相互扶助組織といった利潤追求型でない連帯経済に向いています。資本制経済は、資本が労働をコントロールすることで成り立っています。連帯経済・相互扶助経済はそれとは逆に、労働が資本をコントロールすることを意味しています。労働者や市民が出資して事業を起こすことなのです。
1990年代ソ連の崩壊によって、ソ連依存社会崩壊の危機に直面したキューバが、新たに選択した道は注目に値します。石油に依存せず、「国民皆農」とでもいえる有機農業への転換、自然医療をベースにした先進国並みの医療福祉大国、石油不足に対応するバイオマス、水力、ソーラー、風力といった自然エネルギーの開発。最大の再生エネルギー源として重視されているのは、バイオマスでサトウキビが中心。国内155の精糖工場のうち、104は完全にバガスで稼動。国内のエネルギーの30%、石油換算で400万トン近くを賄っているのです。
21世紀も、工業化を続ける新興のBRICSは、当分高度成長を続けるでしょう。だが、日本や欧米といった現代資本主義・情報化社会は高度経済成長を続けるでしょうか。否。戦争を誘発しなければ拡大再生産できない経済、リーマンショックに見られる制御不能な逆ピラミッド・カジノ型信用資本主義、不要なモデルチェンジを次々にしなければ拡大再生産できない経済、人間の生理的能力を超える超スピード情報化社会、マインドコントロールによってしか需要を喚起できないユビキタス社会、そして人間のコントロールできないエネルギー・原子力に依存してしまった社会、もはや人間は文明のターニングポイントに来てしまっているのではないでしょうか。
現代文明を他の文明と区別する最大の特徴は、それが科学文明であるという点にあります。科学こそ真理を解明するとの信念の下に知識の体系を作り上げ、その成果によって現代文明を築き上げてきました。基礎科学の確立から応用科学が発達し、新しい技術が生まれ、それが社会の経済構造を変化させ、社会全体を変化させてきました。
しかし、科学の発達は同時に、人間に制御不能な技術とシステムを作り出してしまったようです。そのひとつが遺伝子組み換え技術。生命体の遺伝子を操作することで、人工生命体(植物、動物、微生物)を作り出してしまったのです。この行き着く先は人間の改造・超人類のようです。ナノテクノロジー(微細技術)と遺伝子操作とコンピューターの融合で超人類を作り出そうという実験がアメリカで進んでいます。もはや人間の手に負えない世界です。
もうひとつ制御できないことは、現在の金融システム。実経済の数十倍の富?がコンピューターでの瞬時の取引で生み出されている。この魔法は金融工学という数字のマジックでの倒錯したばくち経済を生み出しています。資本主義は信用資本主義という倒錯した新しい段階に入ったようです。銀行の破産から、国民国家そのものの破産へとギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルは進もうとしています。
3つ目の制御不能なことは原始力=核です。このことは広島・長崎で証明され、原理の提供者であるアインシュタインによって世界に警告されました。しかし我々はそのことを知りながら3・11原発事故をSTOPさせられなかったのです。日本人の倫理と規範の敗北です。
今回の悲惨な事態を契機に日本人は今、ターニングポイントを通過していると感じます。人々は量的な豊かさより質的豊かさを求めているのではないでしょうか。現代資本主義は、質的豊かさの物質的基礎をすでに充分生み出してきました。太陽エネルギー依存型の非資本制的連帯経済、エコロジカルな循環型地域コミュニティーの創造、ネットワーク型の相互扶助社会、地球生態系と出来る限り調和した社会のモデルに、これからの日本はなっていいのではないでしょうか。つまり、21世紀の世界のモデルに。日本はかつてシルクロードの終着点でした。今、世界はグローバル化しているが、日本はグローバルな文明と文化の終着点でありルツボともいえるでしょう。だから、そうした文明と文化を咀嚼して独自なものに変化させた後、エコロジカルな文明と文化を世界に発信できるよいポジションにわれわれは位置していると思う。21世紀の世界モデルに社会を転換できたなら。
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