ケニアのGathuru Mburu文化・エコロジー研究所(Institute
for Culture and Ecology)所長が、ケニアで繰り返し起きる飢餓はトウモロコシやその他の”エキゾチック”な作物を偏重、ケニヤ土着の多様な食料作物を絶滅の危機に追い込んでいる農業開発がもたらした人災だ、在来食料の多様性をこそ食料安全保障と食料主権の指標とするべきであり、国の希望をトウモロコシ、遺伝子組み換え(GM)種子、化学肥料・農薬、アグロ燃料(農産物を原料とするバイオ燃料)にかけてはならないと、現在の、そして気候変動によりますます深刻化するであろう食料危機の克服には何が必要かを論じている。
GM will enslave farmers and intensify hunger,The
East African,6.2
http://www.nationmedia.com/eastafrican/current/Opinion/oped020620086.htm
価格高騰がもたらす世界的食料危機のなか、途上国農業開発援助の拡充がにわかに主張されるようになったが、外来種子や化学肥料・農薬の一層の利用など、農業開発の方向を誤ると、危機はさらに増幅するだけである。援助が多国籍アグリビジネスを利するだけで、途上国農民をさらに苦しめることにならないように、とりわけ”ローマ食糧サミット”に集まった指導者たちは、この主張に耳を傾けねばならない。ということで、以下に彼が論じるところを紹介する。
ケニアで繰り返し起きる飢餓は、我々自身が作り出したものである。
まず、国民として、我々はトウモロコシの安定確保を食料安全保障の同義語とするこを受け入れてきた。同時に、土着のものは後進的という我々の心性が作られたために、ケニアで利用できる在来の多様な食料作物が絶滅の脅威にさらされている。
農民として、我々はトウモロコシやその他のエキゾチックな作物を植える土地を持つ。ヤム、アロールート(クズウコン)、甘藷、キャッサバ、カボチャ、ミレット、ソルガムや、その他の栄養豊な在来の野菜や果物を植える土地をほとんど持たない。これらの作物はずっと昔に小農場から姿を消し、トウモロコシの作季が終われば、すべての作季が終わりとなる。
国として、我々は地方の生物多様性と、それを支える気候条件の多様性を利用するのに失敗した。我々は、エキゾチックで金になる作物の農業のために土地を切り開くから、土着の植物と動物が消滅するか、存続が脅かされるほどの数にまで減るのを許してきた。
それに加え、我々はそれ以上の大問題―気候変動―に直面している。国が温暖化し、もはやシーズンが正確に予測できなくなっているのは明白だ。干ばつが予想されるときに雨になり、その逆もあり、小規模農民は混乱に投げ込まれる。農民は変化する天候パターンへの備えを欠いたままだ。
さらに悪いことに、一部の在来食料は悪天候の際の救荒作物として知られているが、それも十分な量は植えられていない。トウモロコシにはこの能力はなく、水不足になればすぐに萎えてしまう。
河川の水量は、驚くべき熱意をもって水源涵養森林を破壊し、土壌から大量の水を吸い取るユーカリを植えたために、やはり驚くべき速さで減っている。このような脅威の中でも、我々は気候変動の影響へのいかなる対応もしてこなかった。気候変動は、なお生物多様性や生計の損失と結び付けられていない。これを関連づけ、適切な行動を取らないかぎり、我々は飢餓に直面しつづけ、毎年食料を乞いつづけることになる。
我々の土壌は、何十年も間、大量の化学肥料と農薬を与えれらた結果、死んでしまった。我々の農業は、相変わらず外部から購入される肥料や農薬などに依存しており、この購入のために、農民は農場から十分な報酬を得られない。種子を含む投入財は決まった価格で購入するが、生産物の価格設定には農民は関与できない。投入財需要を作りだすのは簡単だが、農産物需要を作りだすのは難しい。農民は需給法則に翻弄される。
ケニアで大儲けしているのはアグリビジネスだけで、それが飢餓をさらに悪化させている。肥料、化学農薬は、我々の食料問題への答えではない。
我々が依存するトウモロコシ種子は、多国籍企業がコントロールするハイブリッド種からGM種子に移りつつある。伝統的には、種子は地域社会の近隣同士で共有してきたものだ。種子管理と食料安全保障の共有は、共同体のすべてのメンバーが種子と食料を手に入れるために不可欠であった。しかし、これは遺伝子操作の科学によりゴミ箱に放り込まれてしまった。
このような脅威に直面し、わが小規模農民は、家族と地方経済を救うために、土着の食料を再発見する責任がある。土着の種子に関する地方の知識は地方の長老のなかにある。ケニアの共同体と種子の多様性をもってすれば、毎年繰り返される飢餓から抜け出すことができる。在来食料の多様性を食料安全保障と食料主権の指標とすべきである。
ケニアの農業研究予算は劇的に減らされてきた上に、公的研究機関は、バイオセーフティー法も不備なままにGM技術を偏重している。90年代以来、農業普及予算も劇的に減ってきた。農業生産性は低下、化学肥料と農薬の多用で土壌の劣化が進んだ。普及所があるところでも技術的アドバイスに集中しており、普及サービスは土着のものよりも外来のものの方が優れているというケニア人一般の観念を体現している。在来食料に関する研究は皆無に近く、普及員はこの知識を持たない。
しかし、土着の知識の”科学化”こそ、内生的発展―わが農業を利益を貪る多国籍企業の手から解放するために今ケニアが必要としているもの―の基礎である。
食料生産は今、アグロ燃料と呼ばれる他のアグリビジネスの脅威にも直面している。世界化石燃料資源の急速な枯渇化と気候変動を抑えるという欺瞞的前提が、ケニアをアグロ燃料生産に駆り立てている。外国投資家が参入、政府もこの機会を捉えるための委員会を立ち上げた。
巨大な面積の処女地、とくにケニア東部乾燥地域の処女地が、アグロ燃料投資家のディーゼル燃料を浪費するブルドーザーの標的になっている。ケニアは先頭を切って、作物地を他国のアグロ燃料プランテーションに変え、農業生産を減らし、飢餓を深刻化させている。
政策レベルでは、種子法が地域共同体の知識と種子所有権を差別扱いしている。ケニアは、繰り返される飢餓を自身で和らげるために、土着の種子を取り戻し、それに関する知識を共有することを助けられるように、この共同体現象を認知し、保護する法的手段を必要としている。
国の希望をトウモロコシ、GM種子、化学肥料・農薬、アグロ燃料にかけてはならない。我々は、死んだ土壌を生き返らせ、地方の種子を利用するために、地方で利用できるものに切り替えねばならない。気候変動に対抗する地方の力の創出には土着の知識が不可欠であるこを認めねばならない。
研究も普及活動も、”エキゾチックは進歩的、土着は後進的”という固定観念から抜け出さねばならない。
「政治的独立から45年経った今、我々は心を脱植民地化せねばならない・・・。食料問題で責任を取るのに失敗すれば、自ら再植民地化することになる。飢餓のなかに自由はない―我々は、我々を養う者に合わせて踊ることになる」
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