TEXT:天笠啓祐
(写真・天笠啓祐氏)
米国環境医学会がGM食品の停止を求める
米国環境医学会(AAEM)が、遺伝子組み換え(GM)食品の即時のモラトリアムを求めた。5月19日に発表された、そのメッセージは次のようなものである。
「米国環境医学会は本日、GM食品に関するポジション・ペーパーを発表した。それは 「GM食品が深刻な健康被害をもたらす」ため、そのモラトリアム( 一時停止) を求めたものである。いくつかの動物実験が示しているものは「GM食品と健康被害との間に、偶然を超えた関連性を示しており」「GM食品は、毒性学的、アレルギーや免疫機能、妊娠や出産に関する健康、代謝、生理学的、そして遺伝学的な健康分野で、深刻な健康への脅威の原因となる」と結論づけることができる。
その上で、AAEMは次のことを求める。
GM食品のモラトリアムと即時の長期安全試験の実施、GM食品の全面表示の実行。
GM食品を避けることができるように、患者、医学界、市民を教育する医者の養成。
患者の病気の過程でGM食品の果たす役割を考慮する医者の養成。
人々の健康問題とGM食品との関連を調査するためにデータを集め始める、独立した長期にわたる科学的研究。」(The American Academy of Environmental Medicine 2009/5/19)
AAEMは、1965年に設立された、環境問題と臨床医学を結んだ領域に取り組んでいる学会で、大気・食品・水などの汚染や生物化学兵器などが絡んだ病気を研究し、情報を提供してきた。
では、その多数の動物実験とはどんなものなのだろうか。引用された文献は7 種類で、単行本1 冊に論文6 つである。単行本はジェフリー・スミスの「ジェネティック・ルーレット」で、論文は昨年発表されたイタリア食品研究所やウィーン大学の報告などである。ジェフリー・スミスの本では、多数の動物実験例や実例が紹介されている。そのごく一部を紹介しよう。
多数の事例
(写真・実験用ラット)
1998年にロシア医科学アカデミー栄養学研究所が行った、遺伝子組み換え(GM)ポテトを用いた実験で、ラットに異常が起きていたことが判明した。実験に用いられたポテトは、モンサント社の殺虫性(Bt)ポテト「ニューリーフ」で、そのポテトを与えたラットの臓器や組織に損傷が生じていることが分かった。この実験結果は、8 年間隠されてきたが、ロシアのグリーンピースと消費者団体による長い法廷闘争によって、2007年にようやく公開された。
2003年、カナダ・オンタリオ州のグエルフ大学の研究者が実施した動物実験で、GMトウモロコシを摂取した鶏が42日間の飼育で死亡率が2 倍になり、成長もバラバラになるという結果が出た。用いたトウモロコシはバイエル・クロップサイエンス社の「T25」( 除草剤耐性) である。
モンサント社が開発したBtコーン「MON863」について、ドイツの裁判所が情報公開を命じたことから、同社が行ったラットによる動物実験の詳細が明るみに出た。それをフランスの統計専門家が再評価したところ、モンサント社は問題ないとしていたが、体重では雄が低下、雌が増加していた。また肝臓と腎臓、骨髄細胞にも悪影響が見られた。
その他にも数多くの実例が報告されている。ニュージーランドの市民団体がまとめた報告書で、Bt綿を運ぶ労働者の皮膚が黒く変色したり、吹き出物や水膨れが生じる例が示された。インドでは、Bt綿を収穫した後の畑を利用した牧草地で、草や葉を食べた羊や山羊が死亡するケースが相次いだ。ドイツでも殺虫性トウモロコシ(Bt コーン) を飼料とした12頭の牛が死亡している。
米国では、Btコーンを餌に用いた豚の繁殖率が激減することが報告されている。ある農家の豚の場合、約80%が妊娠しないし、この傾向は他の農家でも現れているという。Btコーンを与えると偽装妊娠が起き、やめると偽装妊娠もなくなるという。
2004年、フィリピン・ミンダナオ島で、Btコーンを栽培している農場の近くに住む農家の間で発熱や、呼吸器疾患、皮膚障害などが広がっていることが分かり検査したところ、3 種類の抗体で異常増殖が見られ、反応が花粉の飛散時期と重なり、抗体がいずれもBtコーンにかかわることが分かった。
以上の事例は、この本で紹介されているもののごく一部である。AAEMは、このジェフリー・スミスの本以外に6つの論文を紹介している。それらについて書かれた部分を紹介しよう。
動物実験から見る健康障害の可能性
(写真・英国王立医学協会)
「GM食品と健康への悪い影響の間には、偶然以上の関連性がある。ヒルズ・クライテリア(1965 年に英国王立医学協会が出した環境と病気との関連性を見る際の基準) の定義に基づいて見ると、関連性の強さ、一貫性、特異性、生物学的傾向、生物学的妥当性の領域で因果関係が見て取れる。GM食品と病気との関連性、一貫性は、いくつかの動物実験で確認できる(1-7) 。
GM食品と特定の病気の経緯との関連もまた裏付けられている。複数の動物実験(2,7) が、喘息、アレルギー、炎症に関係するサイトカインの変化を含む、免疫上重大な変調をもたらすことを示している。
いくつかの動物実験はまた、肝臓の構造や機能の変化を示している。そこには脂質や炭水化物の代謝の変化とともに細胞質の変化も含まれており、それは老化を早め、活性酸素の増加を導くと思われる(3,4,6) 。
さらには腎臓、膵臓、脾臓の変化も記録されている(2,4,6) 。
2008年に発表された最近のBtトウモロコシと不妊に関する研究では、マウスで有意な子孫の減少と体重の減少を示した。この研究はまた、GMトウモロコシを与えたマウスで400 を超える遺伝子に顕著な変化が起きていた(4) 。これらの遺伝子は、蛋白質の合成や細胞間の情報伝達、コレステロールの合成、インスリンの抑制を制御していることで知られている。
ある研究では、GM飼料を用いた動物に腸の損傷が起きていた。そこには増殖性細胞の増加や腸の免疫システムの崩壊も含まれる(2) 。
生物学的傾向を見るために行った、S ・クロスボらが行った実験では、Bt米を食べたラットでBt毒素に特異に反応するIgA が見られた(7) 。」
免疫への影響では、イタリア食品研究所のエレーナ・メンゲリらが行った研究などが引用されている。その実験で用いたGMトウモロコシは「MON810」( 殺虫性) で、マウスに30日間と90日間与え、腸、上皮、脾臓、リンパ球を調べている。その結果、30日間、90日間いずれも、対照群( 非GM飼料) に比べて、生後21日の幼いマウス、18-19 月齢の年とったマウスでT 細胞、B 細胞などの割合で有意の差が見られた。また、MON810を摂取した後に、IL-6、IL-13 などが増加していた。この結果について実験者は、同じ年齢に当たる人間への影響が懸念されるとしている(2) 。
また、デンマーク国立食品研究所のS ・クロスボら、英国、スコットランド、中国の研究者は共同で、ラットにGM米を与えて、免疫毒性学的研究を行った。用いたGM米には、Bt毒素の一つCry1Abを作る遺伝子を導入した。また、インゲン豆のレクチン遺伝子もポジティブ・コントロールに用いた。総免疫グロブリンなどが調べられたが、Bt毒素に特異に反応するIgA が見られた(7) 。
肝臓への影響では、イタリア・ベローナ大学のM ・マラテスタら、いくつかのイタリアの大学の研究者が共同で行った、年老いた雌のマウスでGM大豆を用いた実験がある。結果は、乳離れ以来24月齢までGM大豆を与えた集団は、対照群( 非GM大豆) に比べて、肝細胞の代謝、ストレス反応、カルシウムによる情報伝達、ミトコンドリアにかかわる蛋白質の発現で特異的な変化が見られた。また肝細胞で核とミトコンドリアの変化が、代謝の衰えとともに見られた(3) 。
また、不妊や子孫への影響では、オーストリア政府が支援しウィーン大学獣医学教授ユルゲン・ツェンテクらが行った実験が、引用されている。この実験で用いたGMトウモロコシはモンサント社の「NK603(除草剤耐性)'とMON810( 殺虫性) 」を掛け合わせたもの。実験は長期摂取による影響を調べたもので、2 種類行われた。1 つ目は、4 世代にわたる観察試験で、外見の変化に加えて、組織学的、分子生物学的分析も行われたが、ここでは対照群に比べて有意差は出なかった。2 つ目は、継続的繁殖試験(20 週で4 回出産) で、ここでは有意の差が出た。後者の実験では、GNトウモロコシを33%含んだ飼料を与えたマウスが、対照群( 非GM飼料) に比べて、3 、4 世代目で子孫の減少と体重の減少があった(4) 。
これらの実験で用いられたGM食品は、そのほとんどが日本では食品として承認されている。環境医学会が指摘するように、GM食品の即時流通停止を行い、安全性を全面的に見直す時期に来ているように思う。また消費者が選べるように、食品表示の抜本的な改正も必要である。
著作権 天笠啓祐 (無断転載を禁ずる)
1 、ジェフリー・スミス「Genetic Roulette」Yes Books 、2007年
2 、E ・メンゲリ( イタリア食品研究所) らのGMトウモロコシ(MON810)を用いた実験の論文、Agricultural and Food Chemistry 、2008年
3 、M ・マラテスタらのGM大豆を用いた実験の論文、Histochemistry and Cell Biology 、2008年
4 、J ・ツェンテック( ウイーン大学) らのGMトウモロコシ(NK603×MON810) を用いた実験の論文、Family and Youth、2008年
5 、A ・プシュタイ( ロウェット研究所) らのGMジャガイモを用いた実験の論文、Lancet、354
6 、A ・キリックらのBtコーンを3 世代にわたりラットに投与した実験の論文、Food Chemistry and Toxicology 、2008年
7 、S ・クロスボらのGM米を用いた実験の論文、Toxicology、2008年
※転載(天笠啓祐さんに許可をいただき転載しています。)
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