阿部文子
ノンフィクション作家の島村菜津さんは、スローフードジャパン「味の箱船」の担当でもある。
日本では、スローフードという言葉はスローライフやフェアトレードなどとともによく聞く流行ことばのように感じているが、実は、世界に広がる会員約8万人の世界的運動である。
スローフード運動とは「・・・ただゆっくり食べることでも、ファストフード不買運動でもなく、食のグローバル化とともに世界を飲み込もうとしている味の均質化に抗い、土地土地の多様な味を守っていこう」
(「山形在来作物研究会報」島村菜津『在来種とスローフード』より)
という考えに基づいて、イタリアから起こった。
基本的活動は、各国の会が、その土地土地の風土にあったやり方で活動するが、ゆるやかな指針が3つある。
①質のよいものを作ってくれる小さな生産者を守る
②子供たちを含めた味の教育
③ほっておけば消えそうな味を守る
この③に基づいて「味の箱舟」(アルカ)運動がある。
ごく最近まで、東京のスーパーでは、大根といえばほとんど青首。
ジャガイモは男爵とメークイン。お米はコシヒカリが主流。リンゴやぶどうも2-3種類。
「味の均質化は化学調味料や大量物流によってばかりでなく、何より種から始まっていたのだ」(同)。
日本では、仙台で「味の箱舟」の募集が始まった。大地を守る会が80年代から支援してきた岩手県の日本短角牛、北海道の八列とうもろこし、秋田のハタハタしょっつる、長野の親田辛味大根、山形の花作り大根や新庄水田トラストでもしっかり支援している”さわのはな”など。
すでに9つが正式に世界の「味の箱舟」に乗船した。
特に山形のスローフード協会は、古株の貫禄のある協会である。
大手スーパーに対抗すべく量から質への転換を図った「ワンストップ小山」の経営者・小山さんを会長として、気骨のある生産者が参加している。
銭金になるものを効率よく作るだけでなく、在来種を手間隙かけて作り続けている。
ユーモアあふれる「味の箱舟」ツアーを開催したりして、山形の大地にスロー魂を根づかせている。
BSE(狂牛病)に始まって、食中毒、表示偽装と効率ばかりを重視したフードビジネスの世界は、ますます、世界の消費者の信頼を失っている。
食の6割を海外に依存する日本には、独特のフードビジネスの問題が起こっても不思議ではない。
「そんな中、在来作物を誰に頼まれるでもなく、ひょうひょうと作り続けている人がたくさんいる山形は、希望の先進地なのである。」(同)
そして、ひっそりとそれを支え続ける新庄水田トラスト会員も時代の希望なのである。
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