2011年8月13日土曜日

【福島原発】毎日放送「原発作業員の実態」(8/9放映)


20110809 原発下請け作業員の実態 投稿者 PMG5

テキスト書き起こし:http://www.mbs.jp/voice/special/201108/09_89.shtml


 地震と津波による「福島第1原発」の事故から11日で5か月が経ちます。

 原発で働く作業員なら誰でも持っている「放射線管理手帳」に、日々、被ばくした線量を事業主が記入していくことになっています。

 事故の後、この手帳の発行数が去年の3倍にもなったそうです。

 今回は、こうした危険な現場で日々復旧に汗を流す下請け作業員の実態に迫ります。



 原発作業員およそ1,000人が宿泊している福島県いわき市の温泉街。

 街は暗いうちから動き出し、朝5時ごろにはバスや車が現場へと出発していく。

 「協力会社」と呼ばれる下請の作業員たちだ。

 作業員らが「1F(いちえふ)」と呼ぶ「福島第1原発」。

 屋外では先週、人がほぼ確実に死亡する放射線量1万ミリシーベルトが計測された。

 未だ高い被曝リスクと隣り合わせの作業だが・・

 <原発作業員>
 「日給も安いし、保険も何も入ってないし」

 <原発作業員>
 「言い方は悪いけど、使い捨て」

 (Q.電力会社の存在っていうのは?)
 <原発作業員>
 「お殿様ですね。はっきり言って」

 多重の下請構造が続く原発労働の裾野で今、搾取の構図が見え隠れする。

 「福島第1原発」から南へ30キロ圏内に位置するいわき市。

 取材班は、ここで3人の作業員と出会った。

 3月11日に「福島第1原発」にいた中村さん(仮名)。

 今もあの日のすさまじい体験が頭から離れることはない。

 <福島第1原発で作業 中村さん・仮名>
 「扉が全部開いちゃったから。それが、どんどんあたって。そんであと、ほこりで真っ白になっちゃった。若い子はわかんないからね。『親方、こんなとこで死にたくない、死にたくない』ってすごい騒いでいた。そんでもねえ、階段をあがっていって、入り口がいっぱいでね。そこで、放管(放射線管理者)さんが出口でひとりひとり(検査を)やっていたから、いつもどおり。そんで後ろのほうで、『こんなことしていたら、津波でやられてしまうぞ』と、最後は『わー』とみんな出ちゃった。1人ひとりサーベイ(検査)受けていたら、絶対、あの津波に飲み込まれてたぶん死んでいると思う」

 高台の事務所に避難した直後、発電所は津波に襲われた。

 下請けで働く電気技師の中村さんは、これまで全国7か所の原発を渡り歩いてきた。

 <中村さん・仮名>
 「『Jビレッジ』が見えるから。あの屋根がそうだ」

 この日、取材班は中村さんと原発の前線基地「Jビレッジ」へと向かった。

 この先は原発20キロ圏内。

 警察官の姿がものものしい。

 中村さんは、少し離れた場所で最初に事故現場に戻ったときの被ばくの恐怖を語ってくれた。

 <中村さん・仮名>
 「ケガしたら内部被ばくだから。ガレキがうんとあるから、歩いていても足元を注意して歩かないと、鉄筋が立ってたりなんかしているから、そこをブスッとやったら、そっから内部被ばくだから。そういうのが一番怖かったね。仕事そのものより」

 内部被ばくとは、口や傷口から体内に入った放射性物質が遺伝子などを傷つけ、やがてガンなどを発症させる要因となる。

 こうした放射能への予防教育は、通常ならば数日かけて何度も行われることになっている。

 しかし今回、素人同然の作業員が多くいたと国の専門官は指摘する。

 <厚生労働省労働衛生課 安井省侍郎専門官>
 「(東京電力は)3月中については十分な(放射線)教育をする時間はなかったと。4月に入っても、せいぜい出来ても15分とか30分とかそういった程度の教育しかなかなか出来ていない。内部被ばくの危険性が十分に伝わっていないというのはあると思う」

 末端の作業員は命を削って、対価をもらっていたことになる。

 だが、その対価までもが途中でピンハネされる実態があるという。

 <原発作業員>
 「当たり前だと思う。当たり前に普通にやられている」

 <元暴力団関係者>
 「そいつら、もうけることばっかり言っている。3万抜けるとか、4万抜けるとか」



 なぜこうしたピンハネが、まかり通っているのだろうか。

 事故からまもなく5か月、未だに高い被爆リスクと背中合わせの作業が続く「福島第1原発」。

 下請けで働く電気技師の中村さんは、4月に「福島第1原発」に戻り、仲間と危険手当の話になったときあることに気づいた。

 <中村さん・仮名>
 「おいらは(危険手当を)もらっていて、同じ仕事してる他の会社の人ね、『いくらもらった』と言ったら(相手が)『いやあ、もらってねえ』って。こうなっちゃったんだ」

 今は「福島第2原発」で働く別の下請け会社の作業員、原田さん(仮名)も日当や手当がピンはねされる実態についてこう証言する。

 <原田さん・仮名>
 「当たり前だと思う。当たり前に普通にやられていることだと思う」

 震災前のことだが、こんな体験も…

 <原田さん・仮名>
 「そのときは(日当)2万2,000円から、1日もらったのが1万2,000円ですから、1万円抜かれていた」

 なぜ、こうしたピンハネが横行するのだろうか。

 背景には、電力会社に共通する多重の下請け構造がある。

 「東京電力」を頂点とすると、そのすぐ下に電力御三家と呼ばれる3つの「子会社」と、ほぼ同格の扱いを受ける大手メーカーなどが、元請けとして存在する。そこから多数の下請け企業、末端には派遣会社などが連なっている。



 現在の「福島第1原発」の元請けは22社。

 1次から4次までの下請け、「協力会社」は、ざっと470数社にのぼる。

 全国の原発作業員のうち、実に9割は電力会社の社員ではなくいわば下請けの人たちだ。

 たとえば、ある元請け企業は、事故直後からおよそ1か月間に限って、「特別危険手当」を支給すると決めたのだが・・・。

 <3次下請けの 中村さん・仮名>
 「(最初の1か月)全面マスクかけて現場いった人は1日10万円という『危険手当』。ああいうふうに個人にくれるやつ、これははねちゃいけないやつ、はねちゃいけないんだよね。それをはねるから辞めていっちゃう。もうやってらんねえって」

 また、別の元請け会社では、こんな話が聞かれたという。

 <2次下請けの 原田さん・仮名>
 「1次請けの社長さんに聞いたんですけど、『こういう状態で危険手当がなかったら、誰も来ないよ』と言うと(元請けが)『金が先かと、そういう会社とは一切取引しないよ。おつきあいしないよ』と言われたと」

 こうして、作業員の手当がカットされていくようだ。

 その一方で興味深いデータがある。

 過去の総被ばく線量をみると、電力会社の社員より下請会社の作業員の被ばく量の方がはるかに多い。

 賃金のピンハネに被ばくの危険。

 こうした下請けへのしわ寄せ構造は、原発の「定期検査」の仕組みと深い関係にあった。

 この日、福井県の「高浜原発」で13か月に1度の定期検査が始まった。

 稼働中の原子炉は、1基あたり300~400人で運転しているが、定期検査となるとその数倍、1,000人以上が集中的に作業にあたる。

 原発関連の会社の元社長は、こう悩みを打ち明けた。

 <原発関連会社の元社長>
 「(定期検査で)谷あいが出来てくる。忙しいときと、暇になったりと。ひとつの大きな悩みの種が谷あいを埋めることばかりだったでしたね。寝ても覚めても…」

 定期検査には大勢の作業員が必要だが、検査が終わるととたんに仕事がなくなる。

 さらに、作業員の年間被ばく線量には上限があるため、会社にとっては入れ替えのきく非正規の作業員の方が都合がいいというわけだ。

 元暴力団関係者のこの男性は、最近まで日雇い労働者を原発に送り込む仕事をしていた。

 彼のもとには事故以来、福島への誘いが相次いでいるという。

 <元暴力団関係者の親方>
 「きょうも朝から2回かかってきたわ、『5人ほどほりこんでくれ』って。そいつらは儲けることばっかり言っている。ひとりなんぼになるとか言って。3万ぬけるとか、4万ぬけるとか」

 もしピンハネに抵抗すると…

 <元暴力団関係者の親方>
 「(作業員が)いちゃもんつけたら、あべこべにいちゃもん言われる。『帰るか、帰るまえに死んで帰るか、どうする』と言われるぐらい。言いよるよ、ヤクザからんだ会社やったら」

 福島県いわき市の「ハローワーク」では事故以来、原発関連の求人が増えている。

 しかし、いずれも賃金は安い。

 <いわき市「ハローワーク平」 古生一郎所長>
 「日当8,000円もあるし6,500円~7,000円とか、賃金的条件は(震災前と)変わってないところが多い」

 加藤さん(仮名)は、原発関連の会社を数年前、解雇された。

 だが、日当8,000円で再び4次下請けの会社に就職し、「福島第1原発」の仕事をしている。

 <加藤さん・仮名>
 「仕事のないときに拾ってもらったので、仕方ないかなというのがある。仕事が本当にないので、この仕事を続けていくしかない」

 ずっと雇用保険に入っておらず、健康保険証も持っていない。

 東京電力によると、事故直後から4月末までに「福島第1原発」で働いた作業員のうち、184人の所在がわからないという。

 身元がわからず、内部被ばくの検査もできていない。

 こうした下請けの構造について東電は・・・

 <東京電力の会見>
 「(契約先の)元請け企業が実際にどういった企業を使っているかについては、基本的に私どもとしては口出しする立場にはないので」

 しかし国も、ずさんな作業員管理を問題視している。

 <厚生労働省労働衛生課 安井省侍郎専門官>
 「それは本当に非常に問題で、我々としても初めて聞いたときは信じられなかったんですけど、そんないい加減な管理をしていたか、と。ただ実態としてそういうことをやっていたということですので、大変残念です」

 最前線で働いてきた作業員たちは、今どこで何をしているのだろうか。

 末端にしわ寄せがいく下請構造の中で、中村さんは仕事を続ける理由をこう語った。

 <中村さん>
 「あの原子力、俺たち作ったほうだから。誰かがやらなきゃならねえとなったら、おいらみたいな
携わっているヤツがやるのが一番なんだよね、たぶん」

 ただ、こうも付け加える。

 <中村さん>
 「若い子には言うんだ。なるべく放射能のあるところでは仕事すんなよって。だけどね、仕事しなかったらお金になんねえ、お金がなかったら生活できねえからね」

 日々「福島第1原発」の現場で働く大勢の下請け作業員たち。

 彼らはきょうも生活のため、声を上げられないまま黙々と作業にあたっている。

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