2023年10月15日日曜日

みどりの食料システム戦略」が採用すべき2つの政策

 田中正治
2023年10月

A)スタンス

僕は、1995年から山形県・新庄の農家と都市消費者をつなぐ小さな産消提携グループ:「ネットワーク農縁」の世話人で、、2005年から10数名の友人達と「遊学の森トラスト」を結成、鴨川の棚田で米づくりを楽しんでいる。「ネットワーク農縁」は遺伝子組み換えNO!在来種を守る有機農業(新庄水田トラスト、新庄大豆畑トラスト)と環境保全型農業。「遊学の森トラスト」は、棚田の保全と都市農山村交流がテーマ、試行錯誤しながらやっている。そのような立場から「みどりの食料システム戦略」について、少し意見を述べたい。有機農業関係に永らく携わってこられた多くの方々の意見を参考にさせていただいた。

B)「みどりの食料システム戦略」とは?

2021年農林水産省が策定し法制化た「みどりの食料システム戦略」(以下「みどり戦略」)は日本農業の「大転換」を目標にしているようだ。特に2050年までに耕地の25%。100万haを有機栽培に転換が目を引く。本気なのだろうか。「みどり戦略」の概要は、2025年までに、1)農林水産業のCO2排出実質ゼロ、2)化学農薬使用の50%低減、3)化学肥料使用量を30%低減、4)有機農業の耕地面積を25%:100万haに拡大、を目標としている。
だが、この「みどり戦略」策定の背景には、EUの「Farm to Fork}(農場から食卓まで)戦略があった。EUは、2030年までに農薬使用量50%低減、有機耕作面積25%へ拡大を目標。この事実上の国際スタンダードに対応するため農林水産省はアジアモンスーン地帯のスタンダードを提示することによって貿易障壁を回避しようとしたのだろう。つまり「みどり戦略」は外圧に対応した政策であり、内発的なものではない。従って有機農家にとっては、唐突なもので驚きをもって迎えられた。

C)「みどり戦略」の問題点は? 

大きな問題の一つは、化学農薬代替としてのRNA農薬。RNA薬は遺伝子操作による。それが許容されれば遺伝子操作否定の有機農業は変質してしまう。更に、遺伝子操作するゲノム編集技術を政府は黙認、「みどり戦略」に採用する懸念が強い。有機農業の重要な要素は、生態系との調和、土壌の力、循環であるが、技術生産力主義によって台無しにされる懸念が強い。

D)農業生産性をイノベーションで、とは?

有機栽培技術に関して「みどり戦略」では、2020年から2030年までは主として従来の有機農業技術を「横展開」して普及させる。だが農業生産性を急上昇させる2030年から2050年の間の技術はイノベーション(技術革新)、デジタル農業(AI,ドローン等)を中心に構想。そのためには大規模新規投資が不可欠で、企業農業中心にならざるを得ない。企業収益最優先の企業農業は一人勝ちになっても、破産しても、結局農村コミュニティーを再生・創造することは不可能だ。

E)めざすべき方向とは?

鴨川の棚田で有機農業をやって気になるのは天気、水、土、草、小動物の様子、稲との対話、イノシシの侵入だ。有機農業の先人達も自然との真剣な深い対話の中で様々な技術を創造・開発してこられたに違いない。デジタル農業にはこの真剣な深い対話がない。部分的には優れた適切な技術を採用することはあっても、デジタル農業は私たちの進むべき方向ではない。
1970年代の産消提携運動、80年代の生協産直、2000年代の自治体がかかわるコミュニティベースの有機農業、若い世代のライフスタイルとしての半農半X等々、日本の風土に合い、生態系と共存した有機農業運動は、地域コミュニティーの創造とかかわりながら展開してきた。僕は50か所以上の有機農業グループを訪問したが、コミュニティーとのかかわりや運営、技術に関して実にユニークで工夫に満ちていた。特に印象深かったのは、産消提携とコミュニティーづくりの無茶茶園、木次乳業。循環型農業システムの米沢郷グループ。農業、食品、住宅、生協、介護、医療等60以上の小さな協同組合や株式会社のネットワーク、北大阪商工協同組合。慣行栽培農家が地域ごと有機農家に共感し有機農業に転換した小川町。クラブ生協と地域が強く結合した群馬県の川辺村。このような人たちが生み出した価値観や技術が「みどり戦略」の中心に据えなければならないのではないか。国家はまずこうした方向を全面的・長期的にに支援すべきではないか。

F)「みどり戦略」を実現するためには、EUスイス並みの農業支援を

僕が住んでいる鴨川でも2000年ごろから若者の移住者が急増してきた。地域通貨「安房マネー」のネットワークとユニークな若者たちの魅力がNETを通じて磁石のように、都会からの脱出の試みる若者たちを引き付けるようだ。田んぼに入ったこともない人たちが田んぼに向かう。3年もすればちっちゃな棚田で無農薬・無化学栽培が出来てしまう。耕作面積の40%を占める中山間地では、耕作放棄地が毎年急増している。鴨川でも例外ではない。全ての団塊の世代が80歳代に入る5年後には放棄田は急増するかもしれない。ではどうしたらよいのか。

その為には、一方で、EUやスイス並みの環境保全型農業や慣行農業に対する大胆な農業支援政策が不可欠のように思える。耕作景観、供給保障、景観の質、生産体系、資源効率等に対する基準で、直接農業者の所得に対する、80%から90%以上の国家支援(税金投入=国民の支援)によって、農業者の所得を安定させることが不可欠だ。農業所得に占める直接支払いの割合は、EU78%、スイス90%以上に対して日本は23%に過ぎない。EUやスイス並み引き上げるなら都市の若者が中山間地に移住出来る大きなチャンスになりうる。来るべき食料危機に対する抜本的対策にもなりうる。

そして、他方で50年間の有機農業運動の成果と拡大を「みどり戦略」の中心にすえることだ。そうでなければ、仮にRNA農薬やゲノム編集技術を使い、生態系と共生しない企業デジタル農業によって有機農業面積100ha、25%を達成したにしても、それは有機農業とは似て非なるものになるだろう。

有機農業運動が育んできた価値観と技術を中心にすえること、EU・スイス並みの農業政策を採用すること、この二つが「みどり戦略」を方向転換させ、来るべき食料危機に対する対策になりうる。

 

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