2013年3月30日土曜日

【あべ文子のあっちこち】町に行く行商のみやげ

地元の新鮮な野菜や手作り加工食品などを売っている”みんなみの里”。そこに小さな展示室がある。
あるとき偶然に谷内六郎の個展に出会った。30点ほどの無料の小さな個展。
そこにおいてあった画集「四季・谷内六郎」を思わず手に入れてしまった。1300円。

めったに絵画の本は買わない。高価ということもあるが、そればかりではない。絵の傾向に一貫性がないと感じているからだ。

「四季・谷内六郎」の中に心引かれる1枚がある。「町に行く行商のみやげ」。

「もう遠い日のことです・・・・魚貝やひものの類を行商に行くお母さんの荷に、町へのみやげらしい桃の枝がそえてあるのを見ました。・・・
今でも魚貝やひものの類の行商は、むかしからの方法で行われています。東京にも古い顔なじみの家々をたずねて「今日はウニの上等なのがある」などと荷を開けています。
行商は漁村のお母さん達の重要な仕事のようです。」(「四季・谷内六郎」P28 )

本当に遠い日のこと、私の郷里の鹿児島でも、父や母と共に住んでいた家の玄関に、行商のおあばさんが干物を広げていたのを思い出す。東京でも九州の端っこの鹿児島でも、全国に行商のおばさんたちは展開していたんだ。

しかし、このなつかしい風習は廃れてしまって、心温かい行商のおばさんたちと共に、新鮮でうまい干物を食べる機会を私達は失ってしまったのではないだろうか。大切な生活文化のひとつを失ったのではないだろうか。

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