2011年1月9日日曜日

2011年新春のお慶びを申し上げます

田中正治

新春のお慶びを申し上げます。

新春から縁起でもない話なのですが、TPPという話題がにわかにマスコミでも報道されるようになりましたね。日本の農業は壊滅状態になるぞ!という声もきかれたりしています。

また一方では、今年は食料が世界的に高騰するぞ、食糧危機かも?という声も聞こえてきます。それで、ちょっと思いついたことを書いてみました。新春の悪夢と初夢のつもりでお付き合いください。


(写真 食料暴動)

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、シンガポールなど4カ国から出発し、現在はアメリカやオーストラリアなどが加わって交渉が行われている9カ国の広域的な自由貿易協定です。その特徴は、二国間のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)に比べて、「例外なき関税撤廃」を原則としていることにあります。

協定を締結すれば、農産物を含めた全品目について10年以内に関税を完全撤廃。現在778%の関税をかけて輸入している米も、10年以内に輸入関税ゼロになります。

日本農業新聞は、社説で、警告しています。「日本がTPPに参加すれば、関税による国境措置は効力を失い、米、麦、乳製品や牛肉など畜産物、砂糖など多くの農産物が壊滅的な打撃を受けることは必至だ」と。

農水省試算では、米は90%の減、小麦99%減、牛肉79%減、豚肉70%減など「壊滅的な打撃」となり、食料自給率は12%に激減するとのことです。

ところで、TPPにアメリカがにわかに乗ってきたのは、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国など)新興国の台頭に対して、21世紀に下降線を描くアメリカが、強大な力が衰えないうちに、戦略的にアジアを取り込み経済的、政治的、軍事的に自分の支配下に置こうとしているからなのではないでしょうか。

中国は、おそらくTPPに参加しないでしょうね。こちらも21世紀を見据えて世界的に戦略的布石を打っています。アジアで米中の綱引きが進行中で、日本の政権も両者の間で揺れ動いてきたように見えます。


(写真 TPP反対農民)

鳩山・小沢政権は、アメリカと一線を引き、日米同盟のみならず日中同盟?を結び、日米中正三角形+東アジア共同体という絵を描いて、アメリカと距離を置こうとしたのですが、それがアメリカの逆鱗に触れたようですね。というわけで、小沢、鳩山の「政治と金の問題」をクローズアップすることで、鳩山・小沢政権を倒し親米派を政権に就けた裏にはアメリカの力が働いたと僕は見ているのですが。

TPPに参加しなければ「世界の孤児」になると大騒ぎをしているようですが、別にそんなことはないと思います。BGICsやEUとの選択肢は当然あるわけで世界は多極化していますから。WTO体制の中で、日本は充分グローバル化の渦にまきこまれています。多極化した世界の中で日本は世界の文化・文明が渦のように入ってくる地理的場ですので、それらを咀嚼して新しいものを創造し・発信する伝統を築いてきたのですから、大いにその特技を生かせばいいのではないでしょうか。

ところで、農業はどうなるんだ?ということなのですが、この20年間ずるずると「死に体」に向かっているといわれているわけですから、思い切った方向転換しかないんじゃないですか。


(写真 棚田)

僕としては、3つの夢があります。

1つ目は、国家レベルの政策です。農家所得に占める政府の直接支払いの割合を現行23%から78%に引き上げること。つまり減反を廃止して、直接支払いをEU並みにすること。

この援助を受ける農家(個別農家や農家集団)は、品質改善・多角化(加工・直販・ツーリズムなど)・有機農業などにより経営の経済機能を強化し、雇用の維持や拡大に貢献し、水質・草地・生物多様性(農用在来種の利用や保全も含む)・景観の保全や自然災害防止に貢献する、地方的状況に応じた多様な経営計画を策定、これを実行しなければならないとするわけです。EUはこれで農業と環境を守る基本線を引いたわけですから。

2つ目は、農家と都市消費者のレベルでの政策です。

大企業や外国資本が逆立ちしても出来ないこと。それは農家・生産者と消費者との顔の見える関係・濃い信頼関係です。40年前から有機農産物の生産農家と消費者とが築いてきた顔の見える関係・産消提携です。農協と周りの農家からいじめられながらも強い絆を築いてきた沢山の有機グループが日本には育っています。市場出荷せず、生産者と消費者の産直です。今後、日本農業の主流になるでしょうね。いや日本だけでなく欧米でも地域サポート農業や有機農業として注目を浴びていて、元気です。昨年2月神戸で国際有機農業の世界大会があり、産消提携農家や地域サポート農業グループ集まったので参加してみました。


(写真 直売所)

さらに直売所です。じいちゃんとばあちゃんが家の周りの畑で取れた野菜を売れるで小遣い稼ぎの場としてはじめた直売所(生産者と消費者が直結)。ここでは、市場とちがって農家が自分で値段をつけられます。これって元気が出ますよね。いまや、セブンイレブンを追い越して全国で13000箇所以上。年間売り上げ高1兆円です。

どうやら大量生産、大量物流、大量消費、大量廃棄の20世紀型システムが生きず詰まり、21世紀型の少量、多様、柔軟、参加、ネットワーク型のシステムへ流れは変わってきっているようですね。

さらに、社会的協同経営体とでもよべる事業体です。

例えば宮城県鳴子の「鳴子の米プロジェクト」。民俗研究家の結城登美雄さんがコーディネイターになって、低アミロースの米「東北181号」を発掘。鳴子の農家と旅館組合、陶芸家を結びつけました。全国から会員を募り、鳴子地域をサポートする産消提携システムを作ったのです。日本版地域サポート農業(CSA)といいところ。

でも欧米で脚光を浴びるCSAとどこかが違うよう。欧米のCSAは理念、原則、参加者の権利・義務に関して明確にした上で、個人との契約がなされます。資本、経営、労働、配分などに関して明確な「契約」の締結がなければ気持ちが悪い人々のようです。この欧米の世界に対して、鳴子の米プロジェクトの根底にあるのは、プロジェクトに係わる人たちの顔の見える関係です。作る人と食べる人の信頼関係を養っていくことが大切な世界。だから、人間関係を束ねる綜合コーディネーターが鍵になるようです。


(写真 鳴子の米プロジェクト)

若い世代の人たちにとってインターネットでの通販はいまや常識。ホームページやブログやツイッターで農家が自分の考えや情報を発信し、それに共感する人の双方向の情報ネットワークの中で農産物の売買をしていく。これと通販を絡ませば情報と物の産直になってしまいます。若い農家ではイベントと電子通販を絡ませたやり方が増え始めています。

キューバみたいに、有機農業を農業の基本にすると憲法で決めてしまい、ほぼ全国民が農業に携わる、というのが究極のTPP対策、食糧危機解決方法のような気がしています。

ちょっと、それ過激じゃないの、という方にお勧めなのが、半農半X。食料に対する不安は都市ではじわじわ来ていますから、それだけではないですが、都市を脱出して農山村に移住して生活設計しようという若者がずいぶん増えています。僕が住んでいる鴨川も人気スポット。田んぼと畑を耕しながら、自分の好きなことを仕事にしてしまうライフスタイルです。

いや~、自分には半農半Xはちょっと無理だよ、という方は、気のあった農家や農家グループと直結して、食べ物確保のルートを確実にしておけばいいんじゃないでしょうか。ネットワーク農縁のお米を定期で購入するとか、新庄水田トラスト、大豆畑トラストに参加するとか(^^)。


(写真 新庄大豆畑トラスト)

昨日、友人宅にお邪魔した折、そこに来ていた友人のオヤジさんは、相模原に住んでいるのですが、面白いことをはじめていました。

その人が言うには、食糧危機は絶対来る、それまでになんとかしなきゃ!というわけで、農業経験もないのに1町(3000坪)の田んぼで米づくりをはじめました。資金はというと、自分の考えに共感する人を15名集め、1人から50万円出資をしてもらい、その資金で農業機械や資材を買い、出来たお米を10kg=8000円で出資者に購入してもらっているというのです。その出資者は、自分の友人ではなく、理念に共感した見ず知らずの人たちだというのです。

えっ・・と思いましたが、もうそういう時代なんですねきっと。社会不安、生活不安、食料不安蔓延なんですね。顔の見える信頼関係のネットワーク、何が起ころうと、ぶっち切れない関係をベースに社会と人間の仕組みを草の根で作ってしまえばいいのではないですかね。


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