2014年4月12日土曜日

2014年4月8日火曜日

「置賜自給圏構想を考える会」設立趣意書(案)

【転載】

地域資源を基礎にした「置賜自給圏構想を考える会」設立趣意書(案)


1.置賜自給圏構想を考える背景と趣旨について

 地域の活力低下が叫ばれて久しい。どの自治体も、地域活性化、振興に向けて様々な取り組みを行ってきた。しかし、根本的な解決には至らず、その状況はむしろ厳しさを増している。背景には、国境を越えた企業の利益追求と資源強奪型の経済活動、そして富の一極集中を後押しするグローバルな国際金融システムがあり、結果として国内の中小零細企業、家族農業、地域経済は先細りの一途をたどっている。 

 このような現状を打開するために、ここ、置賜を一つの地域ととらえた「自給圏」(注1)をつくることを提案する。これは、圏外への依存度を減らし、圏内にある豊富な地域資源を利用、代替していくことによって、地域に産業を興し、雇用を生み、一方的な富の流出を防ぎ、地域経済を好転・持続させようとする、いわゆる「地域循環型社会」構築のための取り組みである。



2.自給圏構想の柱 -エネルギーと食の地産地消を進める-

(1)地産地消に基づく地域自給と圏内流通の推進

 ① エネルギーについては、国の固定価格買い取り制度(FIT)の後押しもあり、再生可能エネルギーの導入が全国的に進められている。ここ、山形県でも、豊富な水、豊かな森林資源を活かした取り組みが進行中であるが、置賜地域においても、自然資源の有効活用という観点から再生可能エネルギーの地産地消をさらに加速化させる。

 ② 食については、地域で生産された農畜産物をできるだけ地域で消費する取り組みを通じて、生産者と消費者の距離を縮め、顔の見える関係、すなわち、住民の台所、幼児・学校給食、医療施設、旅館業、飲食業、加工食品業界など圏内消費(者)層と農業団体など圏内生産団体とを有機的につなぐシステムを構築する。これにより圏内農業者の安定経営と、農畜産物の安定供給を確保し、もって住民の食の安全を守る。

 ③ 流通については、地元スーパー等に圏内生産物の取り扱いを積極的に働きかけ、地元産の占有率を高めることを目標とする。そのためには、まず、学校、幼稚園、病院、農協、生協、商工業者、飲食業組合、旅館業組合、市民団体、NPO、官公庁などが率先して地元産生産物を利用することが肝要で、そのための働きかけを積極的に行っていく。


(2)自然と共生する安全、安心の農と食の構築

 一般的に農業問題を語るとき、規模やコスト、つまり効率の問題として議論されることが多く、そこには社会資本としての農村、つまり自然環境や文化伝統、人材育成といった視点が欠如している。地域社会における農業の役割は、単なる食料生産にとどまらず、水源の涵養、景観の保持など、多様な役割を担っている。農業があるからこそ農村が存続する。これら農村の役割は、効率性や経済性では決して図ることのできない外部経済効果である。

 また、高畠町のある置賜は全国に先駆けて取り組んできた有機農業(注2)の先進地である。有機農業は、いのちの源である土と共生する農業であり、人にも環境にも負荷が少ない、持続可能な循環型農業である。この取り組みにより、安全、安心の置賜の食を実現する。


(3)教育の場での実践

 ① 米沢市に平成26年度から山形県立米沢栄養大学が開校し(注3)、圏内には地域の人材を輩出してきた置賜農業高校などの高い教育力をもつ学校が数多くある。県・市町村の施策と教育現場の力を連携する仕組みをつくる。

 ② 学校田、畑、地域の農地を活用し、幼児より高校生まで、土に親しみ、作物をつくり、調理を学ぶ教育の場として実践するとともに、人が生き、自立し、暮らしていく基礎としてこれらを学ぶ。


(4)医療費削減の世界モデルへの挑戦

 農家以外の人でも、土や農に関わることができる道を拓き、生きがいづくり、健康づくり、食への理解促進につなげ、健康長寿による医療費削減の世界モデルを構築する。



3.自給圏が生み出す宝

(1)経済力

   ・地場ものの生産・加工・流通、再生エネルギーの地域での創出などを通し、地域資源が圏内で循環するとともに、新しい雇用を生み出す。

   ・地域内消費を主力としつつも、その余力は「自給圏ブランド」として圏外にも供給し交流を図り、付加価値を還流させる。

(2)健康力

   健康な土から生まれる栄養豊かで安心な食べ物を摂取することにより、圏内住民の健康を守ると同時に、農的暮らしの実践による健康長寿を実現する。

(3)教育力

   農業体験を通じて子どもたちの「生きる力」や感受性を育む。

(4)福祉力

   小規模農家や高齢農家が農業を続け、生活を維持することで、村(コミュニティ)が再生でき、コミュニティの助け合いが維持、強化される。そのことを通して地域の持つ福祉力が向上する。

(5)地域財政力

   上記の地域経済の創出により市町の税増収が図られるとともに、健全な食や生きがいづくりなどによる住民の健康や福祉の向上を通して、医療・福祉・介護などに対する支出が抑制され、財政健全化に貢献する。

(6)地域の魅力

   自らの地域に自信と誇りを持つことによって地域の魅力は飛躍的に向上する。魅力
ある地域には訪れる人も増えることから、交流人口の増加が図られる。


 江戸時代屈指の名君として知られる米沢藩第9代藩主上杉鷹山は、産業振興、特に農業の発展に尽力し、破綻寸前の藩の財政を再建させた。時代は変わり、第一次産業が経済の中心とはもはや言えない現代社会ではあるが、食こそが人間活動の源であり、最も大切な営みであることは、どのような時代でも変わらない。今こそ鷹山公の精神に学び、農業を通して地域再生の在り方を真剣に考えるときである。


 規制緩和と自由競争のもとで地域が生き残るためには、住民が主体的にこの地域を考え、行動するところから始まる。一人一人が地域資源に目を向け、その重要性と価値を認識し、付加価値を生み出すための行動をとることで、多様性に満ちた地域の食をはじめとする文化を再認識、継承するとともに、地域を基礎とした新しい人間社会のモデルを築き、広く世界、未来に示していきたい。このことで人々は、置賜が真の「東洋のアルカディア」として地域に誇りと愛着を持つことになることを信じたい。

ここに「置賜地域自給圏を考える会」への参加を呼びかけ、ともに、置賜の地域資源(土、水、山)の上に人と資源と経済が循環する仕組みをつくることを提案する。

(注1)自給という観点でみれば、江戸時代の藩は生活と経済の単位として意味がある。多様な藩(地域)が集まって日本を形成しているが、この地域の多様性、独自性こそ、豊かな未来を築く上での重要な資源であり可能性でもある。

(注2)山形県では、「山形県有機農業推進計画」を策定し、有機農業に取り組む農家数:450戸、栽培面積:800ヘクタール(平成28年度)を目標に、生産者への支援強化に取り組んでいる。

(注3)米沢市の山形県立米沢女子短期大学は、平成26年度から四年生の山形県立米沢栄養大学に改組され、健康栄養学部健康栄養学科が設けられる。