2012年9月2日日曜日

【在来種】映画『よみがえりのレシピ』

【転載】
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  有機農業ニュースクリップ

                   2012.09.02
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≪ 気になる映画 ≫
■地域で食べて継ぐ在来野菜

  2007年ごろから『いのちの食べ方』や『キング・コーン』
 などの「食」をテーマとする“告発型”の作品が公開され、ブー
 ムとなった。山形県出身の渡辺智史監督は、こうした作品に違和
 感を覚えたという。そんなとき出会い感動したのが、故郷の在来
 野菜に光をあてた『どこかの畑の片すみで』だった。すぐに、
 引っ越したばかりのアパートを解約し山形に戻る。そして、多く
 の“市民プロデューサー”などの支援を受けて、山形県に残る多
 くの在来野菜とそのタネと、それを次の世代につなぐ人たちに光
 を当てたドキュメンタリー『よみがえりのレシピ』を制作した。

  60年代以降の経済成長と、流通システムの構造的な“変革”
 に伴い多くの在来の野菜が消えて行った。2000年ごろから、
 山形県では山形在来作物研究会などが、消え去りつつあった在来
 作物のリストアップと、復活への活動を展開してきた。その中か
 ら、この『よみがえりのレシピ』のきっかけとなる『どこかの畑
 の片すみで』と『おしゃべりな畑』の2冊が上梓された。「在来
 作物は生きている文化財、地域の知的財産」である在来野菜を満
 載した本だ。

  自家消費用に作ってきて、もうやめようかという時に、漬物屋
 さんから声がかかって、かろうじて残った外内島キュウリ。この
 キュウリに象徴されるように、現代の流通と消費者の舌とは、少
 しずれてしまった在来種。しかし、その地域で、あるいは家族の
 中で、風土に合って何百年と受け継がれてきた在来野菜は、その
 タネ自体が、その食べ方=食文化が“生きた文化財”であるとも
 いえる。

  消えつつある遺伝資源でもある“在来野菜=在来種を生かし、
 守る”、といっても、博物館に収めるのではなく、生活の中で生
 かしつつ、将来へ引き継いでいく。小学生は、外内島キュウリを
 作り、タネ採りまでを学習する。Uターンした若者は、甚五右ヱ
 門芋(サトイモ)栽培を祖父から教えを受ける。細々とおばあさ
 んが作り続けていた藤沢カブは、山仕事とともに若者に伝えられ
 る。

  地域で在来野菜を掘り起こし、引き継いでいこうという農民と
 市民、研究者と調理人、老人と若者が、タネと野菜を軸に重層的
 に描かれる。研究者や農民、市民の地道な活動で、その将来には
 希望が見えてきている。

  しかし、蒸気機関車の動態保存には、定期的に「動かす」こと
 が必要であるということと同じように、生きた在来野菜の保存に
 は「食べる」という行為が欠かせない。現代的な食の枠組みから
 外れた多くの在来野菜を、現代にどう生かすか、どう引き継いで
 いくのか。この道は余りにも厳しい。量が少なく形が不揃いの在
 来野菜は、「売る側」の都合による流通システムには乗りにくい。
 個性的な味が多い在来野菜は、糖度ばかりを強調する今風の野菜
 とは違う。タネの量も商業的な規模には及ぶべくもなく少なく、
 自家採種に頼らざるを得ない。こうしたいくつもの壁を、どうク
 リアしていくのか。その一つの解が、かつての日常食から、一足
 飛びに「アル・ケッチャーノ」というイタリアンレストランに飛
 ばなければならない現実である。奥田シェフの、在来野菜をおい
 しく食べようという意欲と創作はすべて善意である。そうである
 が故にこの現実は悲しいが、ここから再起するしかない。

  タネが「地域の文化財」として脚光を浴びる一方、在来野菜は
 日常食の世界から抜け落ちていく。在来野菜がどのように食べら
 れてきたか。この作品ではほとんど描かれないこのことが、在来
 野菜の今を象徴している。一挙に「アル・ケッチャーノ」という
 非日常的な食の世界に飛び、そこで生き残る道を選ばなければな
 らない在来野菜の現実は悲しい。ある試写会でこの作品は、まだ
 在来野菜が日常にあった50歳以上には一定不評であったのに対
 して、その存在自体が目新しい30代には好評であったというこ
 とも、在来野菜のおかれた現実の反映だろう。あるいは、まだ
 30代前半の渡辺監督と通底する視点の故だろうか。

  こうした在来野菜の直面する厳しい現実を背景にしつつも、画
 面は明るい。面的な広がりを持った、“山形方式”による在来野
 菜の掘り起こしと「動態保存」への“自信”がなせることのよう
 にも思われる。

  『モンサントの不自然な食べ物』の公開により、遺伝子組み換
 えや在来種、種子そのものや自家採種などが、急にクローズアッ
 プされてきた感がある。やみくもに「在来種」の保存や自家採種
 の重要性を云っても、それだけでしかない。その作物を、作り、
 食べ、タネを採り、次世代へつないでいくための“戦略”が必要
 である。それは画一的なものでもなく、強制されるものでもない。
 在来野菜が地域風土に育てられたように、その地域に合ったもの
 でなければならないだろうし、それはその地域に生きる人たちの
 選択でしかないだろう。『よみがえりのレシピ』は、山形の選択
 の形でもある。

  正面から在来種やタネをテーマとする映像作品は少ない。日本
 では、ほとんどないといってよいだろう。その点でも、この『よ
 みがえりのレシピ』は地元密着型の稀有な作品といえる。この
 10月、地元山形各地での地道な上映運動の勢いを駆って、東京
 で劇場公開される。何百年と作り、食べ続けてきた在来野菜とそ
 のタネ。新たな生き方を探る動きから、これからの食や農のあり
 方が垣間見えるかもしれない。

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 ●『よみがえりのレシピ』
   公式サイト http://www.y-recipe.net/ ※リニューアル中
   予告編   http://www.youtube.com/watch?v=X1j_Qbad8PY

 ●気になる本『どこかの畑の片すみで』
  「在来作物は生きている文化財、複眼で見た地域の知的財産」
   http://organic-newsclip.info/book/book-016.html


 ※この記事はウェブサイトにも掲載しました。
   http://organic-newsclip.info/book/book-022.html

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有機農業ニュースクリップ

 公開サイト:http://organic-newsclip.info



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